異邦人(いりびと) [book]
京都を舞台に、画家、画廊、美術館と美術にかかわる人々の様々な思いが絡みつく。
主人公菜穂の強烈な芸術至上主義に何とも凄みを感じる。
葵祭から祇園祭の宵山、屏風祭り、山鉾巡行、貴船の川床、渡月橋・・等々、京都ならではの歴史を感じさせる行事、場所が丁寧に登場し、日本人の美や歴史に対する思いを凝縮したのが京都である事が分かる。
屏風祭りというのを初めて知ったが、全く凄いものがあるものだ。
京都の景色を思い浮かべながら、深く面白く読める本だった。
日本存亡のとき [book]
1992年初版と、30年近く前の本。
冷戦後の世界情勢と日本の姿を解説するが、全く古さを感じさせない。
戦後から復興し、経済大国となった日本が、外圧によって変わって行く様子が何か懐かしく思える。
経済大国となった日本は国際社会に対してもそれなりに行動する責任が生まれる。
「・・日本の経営者は自らの企業利益だけでなく、日本全体の利益を考えた。」
確かにかつてはそういう気概を感じた・・・
「野党は質問し、政府に失言もしくは矛盾した発言をさせて政府を攻撃する機会をとらえようとする。その攻撃の最大のものは’審議拒否’である。」
この頃からそんな野党になったのか・・・
今読んでも凄く興味深い内容だった。
日本のいちばん長い日 [book]
終戦の日を迎える1日が濃密で、たっぷり読みごたえがある。
過酷な戦争を終結させる恐怖と安堵感が入り乱れる。
終戦により象徴天皇となった天皇しか知らない世代にとっては、その圧倒的な存在を感じる。
国家の方針が決まった後も、それでは国体護持が危ういと徹底抗戦を図る青年将校たち。
自決する阿南陸相であるが、全責任を負い部下には死ぬなと説く。
限られた時間の中、国家の命運を決める緊張感が凄まじい。
美しく、強く、成長する国へ。ー私の「日本経済強靱化計画」 [book]
政治家の本はこれまでにも何度か読んだことがあるが、これだけ政策を目いっぱい書いてる本は初めてだ。
現役政治家の中でここまで勉強している人はいないんじゃないかと思う。
個人的に気になったのは、ベビーシッターや家事支援を国家資格化し、税額控除の仕組みを作るという点。
国家資格にするという事は、その認定組織ができ、また天下り組織ができるということで、そこまでする必要がある事なのかと思う。
総裁選の中、旬なので読んだが結構中身の濃い本であった。
独立記念日 [book]
最近はまってる作家さんなので読み始めたが、最初の2,3話読んでこれは違ったかなとちょっと置いといた。
暇ができたので続きを読み始め、結局勢いというか面白くなって最後まで読んだ。
書かれてるのは女性の生き方の話で、男としてはやっぱり女性のほうがいろいろ考えることが多いと素直に感じる。
最初はしんどいと感じたが、途中から妙な温かさを感じたから読めた作品。
店長がバカすぎて [book]
以前から書店員さんのポップとかあったのだろうが、本屋大賞が出来てから書店員さんの存在が大きくなったのは間違いないと思う。
書店員さんはやっぱり本好きなんだろうなあと当たり前に思いつつ、現実の仕事・店長に振り回される主人公や、やっぱりちょっと変だったり謎めいたりする小説家や出版社社員の関係が面白い。
店長は果たして本当にバカなのか、実は切れ者なのか?絶妙なうまさで悩ませる。
しかし、本の面白さとは別に、正社員でない店員さんの給料の安さがこれは真剣にまずいわと気になってしまった・・・
ゲンロン戦記-「知の観客」をつくる [book]
TVやネットでエラそうに話しているイメージが強いのだが、本書で見える姿は随分違う。
批評家として自分のやりたいことをするために会社を設立するのだが、ビジネスの現実の前に様々な苦労をするというどちらかというと自伝的ビジネス本だと思う。
東氏の発言にはいわゆる批評家の理想論的な発言でなく、現実的なところを感じるのはこの苦労のせいなのかと思う。
言ってる事は割と普通というか、逆に所謂評論家は現実を知らないから言いたい放題なんだろうなという気がした。
京大 おどろきのウイルス学講義 [book]
コロナの影響でTVで良く見かけるようになった宮沢先生の本。
そもそもウイルスとは何かとか、DNAあたりの話はちょっとなじみが薄く興味がわきにくく、個人的に非常に興味深かったのは現在の生命技術が驚くほど進んでいるという話。
確かにかつては「試験管ベビー」なんて呼ばれてた人工授精が今は普通に不妊治療として行われている。
いずれ人工胎盤が開発されれば、母体にリスクのある自然分娩を回避して、子宮代わりの人口的なタンクで出産なんてのも可能になると。
子供は自然に生まれてくる存在でなくなり、家族の概念も変ってくる。(国家が統制??)
脳を持たない臓器を採るためだけのクローン人間さえ作ってしまう可能性も。
安全とか必要性の要求に科学が答えられるようになった時に、人間はその要求を倫理で抑えることが出来るのか?
そら恐ろしい気がする・・・
たゆたえども沈まず [book]
ゴッホの絵は当然見たことがあるが、親密な弟がいたことや浮世絵にここまで影響を受けていたとは知らなかった。また、同時代に、パリで画商として名を成す林忠正なる人物がいたことも。
これらの実在する人物に架空の人物を織り交ぜて展開されるストーリーが妙に生々しく面白い。
印象派というのも当たり前の存在に思っていたのだが、当初は際物扱いだったのだというのにも驚き、美術の世界も変化していくのだという当然の事に改めて気づかされる。
解説で美術史家・圀府字教授が「いいなあ!・・話が作れて・・」とつぶやかれているのも妙に納得してしまうというか、小説家の面白さ、凄さを感じる。